三越350年の歴史

現在の三越の前身である越後屋の創業は1673年。それから350年を超える年月の中で、さまざまな営業革新と挑戦があり、日本の商業史上、大きな貢献があったと言われる。こうした三越の歴史を後世に残すため、史料を収集し、その一部をデジタルライブラリーとして公開していこうというのが「三越350年の記憶」プロジェクトである。全国に店舗網を拡大してきたが、他業態との競争の中で百貨店は苦戦を強いられ、いくつかの店舗は閉鎖を余儀なくされ現在に至る。

百貨店は”街の灯り”だと私は考える。存在している時にはその貢献は理解しづらいが、無くなってみると来街者の減少に拍車が掛かり、街全体の衰退がさらに進んで行く実態が全国で見られる。1990年代から大規模小売店舗法などの規制緩和によって郊外には多くの大規模なショッピングセンターが設置され、百貨店の顧客を奪っていったことが1つの引き金になっていた。しかし、このショッピングセンターがアマゾンを始めとするネット通販の攻勢を受けている。既に米国では郊外型ショッピングセンターの閉鎖が相次いでいるという。

三越創業350周年を迎えた2023年。百貨店研究者有志が集まって三越の歴史をまとめることになり、改めて史料の収集を行った。国立国会図書館、地方都市の図書館、三井文庫など調べたが、多くの史料が既に散逸してしまっていることが分かった。さらに、現在の株式会社三越伊勢丹内の残されている史料も実は多くが、未整理のまま倉庫に眠っている、または既に破棄されてしまっている実態も明らかになった。特に、閉鎖店舗に関する史料はほぼ何も残っていない。こうした店舗に関わる情報としては、従業員の記憶が頼りであり、インタビューによって記録してきたが、戦後、そして高度成長時代の三越を知る方々も少なくなってしまった。今、残しておかなければ歴史として無かったことになってしまう。こういった危機感がある。

百貨店研究者として、手持ちの史料をまとめ、従業員の声を残しておくことが喫緊の課題である。ぜひご協力をお願いします。

「三越350年の記憶」プロジェクト 鈴木一正