「脱成果主義!~変化が激しい時代の働き方を~」

2024年5月15日付『日本経済新聞(朝刊)』の「私見卓見」欄に次のような投稿があった。「人事評価はプロセスも重視せよ」

筆者は賃金人事コンサルティングオフィス社長の蒔田照幸氏。蒔田氏の主張は明快で、“評価対象は成果だけでよく、プロセス評価なんて無意味”という昨今の風潮に対して警鐘を鳴らしている。「マニュアル通りにやっても結果が出なかった」など、無責任な発言をする人もいるが、マニュアル通りで上手くいきそうになければ途中でやり方を工夫すれば良い。成果だけの人事評価では、創意工夫して目標達成しようという挑戦的な行動が否定され、何もしない方が無難という減点主義になってしまう…という主張である。

そうなんだよな…とおおいに共感した。

営業職であっても、結果だけを評価する企業はそれほど多くはないと思うのだが、優秀な人材確保のためにメリハリのある人事賃金制度を導入することが“風潮”としてあるようにも感じている。限られた人件費原資を有効に活用して、企業全体の業績向上に結び付けようということだろう。メリハリのある処遇のためには、評価に明確格差が評価で表現されなければ納得性がない。従来、プロセス評価は定性要素も多くなり、メリハリが付かない傾向があるため、どうしても成果のウエイトを高めざるを得ない。しかし、成果とは現時点で表れたものである。成果のウエイトを高めれば高めるほど、将来の業績よりも直近の業績を最優先するようになる。今は成果には結びつかないかも知れないが、この活動を着実に遂行していくことできっと将来に花開く活動は評価されない。さらに、業績に直結する仕事をしている従業員は結果として手厚い処遇をうける可能性が高まる一方、彼等を支えているスタッフやアシスタントの評価は決して高まらない。仕事というのは一人でするものではなく、チームでするものなのに…である。

「PDCAは大切だよね。」とよく言われるが、プロセス評価を重視しない企業(職場)では実際の仕事はみんなが好き勝手に自分の目標達成に向けて活動しており、仮説→実践→検証→修正→仮説…とはならない。これだけ環境変化が激しい時代だからこそ、マニュアル(もしくは行動基準)=仮説を明確にして愚直に取り組んでみるという働き方が大切だと思う。仮説の精度を高めていくこと、着実な実践をマネジメントすること、これこそが経営の仕事なのではないか。全体目標をただただ従業員に割り振って、「あとは皆さんよろしく!」では経営はいらないと思う。

「名選手、名監督ならず」という言葉がある。高い業績を実現した者が速く昇進し、上位の役職に就くことがおおいだろう。社内秩序で言えばそうならざるを得ない。しかし、これからの時代は、今までの成功事例は役に立たないと思った方が良い。仮説・検証サイクルを回しながら、チームとして高い生産性を上げることをマネジメント出来る人材こそが経営を担うべきだと思う。

プロセス評価の重要性をもう一度認識していただきたい。改めて、この記事を読んで思った次第です。

追記

マーケティングが担当なのに、なんでいつも人事賃金制度のことばかりコメントしているの?と言われることもあるのですが、マーケティングとは常に仮説・検証の繰り返し。そのためにはそれぞれの担当者の行動基準を明確にして、着実に実践することが前提なのです。その前提になるのはやはり、人事制度なのです。こうした点も含めてご説明させて頂ける経営の方々とぜひ情報交換をさせていただきたいと思っております。

「孤立する『面倒見のいい上司』」~成果主義から“縁の下の力持ち”を大切にする組織へ

2024年6月20日付の『朝日新聞(朝刊)』に東畑開人さんという臨床心理士の方の「働き手不足から『有限性』を考える~「孤立する『面倒見のいい上司』」というコラムが掲載されていた。その主張の概要は以下の通りである。

人手不足の現代にあって、働き手に「いかに来てもらうか」ももちろん大切だが、「いかに居てもらうか」ということも重要だ。給与や労働時間などの待遇改善も大切だが、働き手は孤立するとき、働き続けられなくなる。だからこそ、職場に面倒をみてくれる人がいて心を許せるつながりがあることが必要だ。例えば、具合が悪くなったときに面倒をみてくれる“徳の高い”上司がいると有り難い。こうした“徳の高さ”は、その上司の人生経験の果実であり、個性であり、誰もが身につけている訳ではない。“徳の高い”上司は、熱心に部下のケアをする、こまめに連絡をとり、面接を重ね、面倒を引き受ける。生産や営業、開発といった売り上げにつながる努力は人事評価に直結する。…人間を支える人間を私たちは正当に評価することができない。

こんな内容だった。

私は“徳の高い”上司ではないが、外商部門で教育担当を永らくになってきたので、数多くの問題児(?)に対応してきた。すぐに休んでしまう、指示を守らない、やる気がない…などなど。特に、百貨店の外商は(その当時は)決して喜んで行きたい部門ではなかった(と思う。)「なんでこんな部署に来てしまったのか…」と率直に思っていることがヒシヒシと伝わってくる。「この部門に来て良かった!」と思ってもらえるように、いろいろと努力もした。朝は誰よりも早く出勤して、掃除機を掛け、デスクを綺麗なぞうきんで拭いて、出勤したメンバーには必ず「おはようございます」と声を掛けた。1日の仕事内容を明確にするため、文書化し、メール配信&朝礼での伝達。1日の振り返りミーティングで各人から報告を受ける。仕事の進め方に問題があるメンバーは会議室へ呼んで理由を聞き、出来ることは解決するように努めた。一番困ったのは無断欠勤で、連絡が付かない場合にはそのメンバーの住まいに行って在宅を確認し、話を聞かなければならない。訪問しても出てこない場合には、家族の許可を得て、アパートの管理人に連絡し、警察に相談して鍵を明けてもらったこともある。

こうした活動は売り上げには直結しない。でも、誰かがやらなければならない。特に不満を持っていたわけではない。元気になって、少しでも営業活動が出来るようになり、一緒にビールを飲めるようになれば嬉しかった…。

外商と言えば成果主義の象徴のような部門と思うかも知れない。実際に多くの企業では売り上げ連動型の処遇の仕組みが整備されている。しかし、売り上げに直結する仕事に専念できるのは、まわりのメンバーや面倒を見てくれる上司がいるからなのだ。“縁の下の力持ち”的な活動をする人がいなくなったら、高い処遇も実現しないのだ。

決して高い処遇を得ていないけれども、「あの人がいたからこそ、この部門は成り立っている」と思う人が複数いるはずなのだ。そうした“徳の高い”人を大切にしない組織は、みんなが自分の売り上げのことしか考えない組織は、決して継続的な成長はしない、と私は思う。しかし、こうした“縁の下の力持ち”の重要性をちゃんと考えている経営者は、そう多くはないのが現実だ。もっと処遇を改善しろ!と言っているのではない。“徳の高い”人はお金で動いているのではない。“縁の下の力持ち”を大切にする組織こそ、継続的な成長をもたらすと私は考える。

「世界標準の経営戦略」に優る現場発の改善活動

日本発の生涯顧客戦略を打ち立てよう!

なんだかとっても大それたテーマを掲げてしまった。

慶應義塾大学商学部の岩尾俊兵准教授の『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか 増補改訂版『日本“式”経営の逆襲』』(光文社,2023)読んでいるのですが、とても面白いのです。

岩尾氏は、同書の内容を自由に要約、紹介して良いとのことなので、以下に一部引用します。

「…日本企業は、様々な人材育成施策、OJT、QCサークル活動、改善活動等といった「すべての人に開かれた経営教育」を通じて、経営知識と経営意識の格差という価値創造の障害さえも取り除いた。

組織内で経営知識と経営意識を高く持つ人とそうでない人が偏在すると、仕事は『自分たちには関係ない、あいつらがやること』という感覚が蔓延する。それにより組織内には摩擦が生まれ、人間同士のいがみ合いが価値創造の障害となる。

この状況を、過去の日本的経営は、組織内のすべての人に経営知識と経営意識を浸透させることで克服したのである。

だが、その後の日本には『ヒトよりもカネが大事』な似非世界標準経営が広まった。」

(前掲書、5-6頁)

「あーそうだよなぁ」と共感してしまった。

私も某百貨店に在籍していた時に、超有名な外資系コンサルティングの方々が入ってきて、当時の経営に携わる方々と議論して、いろんな施策を現場に落としてきたことがあったのです。なんだか、現場実態にあわない、全く実効性のないと私には思われる施策なので、部長たちに「この施策、何の意味があるのですか?」と聞くと、「経営から言われているので、我々ではどうしようもないんだよ。」とか、「俺も意味ないって言ったんだよ。でもどうしてもやれ!って、本部から言われているんだ」などなど、結局中間管理職も意味が分かっていない。仕方なく実行するけど、意義を見いだせない中でやるので、やっぱり成果にはつながらない。

ちなみに、この会社はQC活動的なことは一生懸命やっていて、優秀なチームは全社の発表会などもありました。私も業務改善レベルではありましたが、試行錯誤していたので、発表会に呼ばれたのですが、発表の予行練習を何度もやらされて…「忙しいのに何をやってんだか」と腹を立てていたこともあります。

もっと身近な課題を解決することに積極的になった方が、お客様も従業員も喜ぶし、結果的に売上もあがるんだけどな。

ビジネススクールを修了してみて、「あの時の施策は、あの理論、あのフレームワークだったんだな」と良く分かります。コンサルティングファームが推進しているのは流行りの理論なのです。おもしろい理論があるとみんなが飛びついて、それをコンサルが企業に売り込むネタに使っている。経営者クラスは“世界標準経営”の理論の概要くらいは聞いたことがあるので、飛びついて改革をしている気持ちになっている…なんてこともあるのかな。

私の専門は生涯顧客育成による中長期的な業績の向上を図ることです。現場の中で試行錯誤してきた取り組みをベースに、ご依頼を頂いた企業の現場の声を収集し、現場発の改革を進めていくことが一番効果あると思うのです。

だって、実践するのは現場なのです。コンサルじゃありません。

グリコ出荷停止問題から考える「縁の下の力持ち人材」の課題

プッチンプリンがコンビニの棚から消えた。

2024年4月23日付『日本経済新聞』には次のように記述しています。

「グリコが(4月-引用者註)3日、調達や出荷、会計などの業務を一元管理する統合基幹業務システム(ERP)を全社的に切り替えたところ、障害が発生し、物流センター業務を一時停止した。18日に一部業務を再開したが、出荷データの不整合が見つかるなどとしたため、再度出荷を停止した。5月中旬の出荷再開を目指す。」

※5月1日付日経によれば、出荷再開時期を「6月中」へと延期したとされる。

この問題の背景の1つに「2025年の崖」問題があるようです。「2025年の崖」問題は、『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開』(経産省デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会、2018年)によって注目を集めるようになりました。2017年に実施した調査(日本情報システム・ユーザー協会)によれば、我が国の企業の約8割が「レガシーシステム」を抱えており、自社システムの中身がブラックボックスになってしまい、自分たちの手では修正できない状況に陥っていると指摘します。とは言え、日常的には機能しているため、ふだんは全く問題になっていません。しかし、業務の見直しのためのシステムを更新しようとすると、既存システムを構築した時に携わった有識人材は既に退職し、マニュアル等も残っていない…どこから手を付けて良いのかが分からず、途方に暮れてしまうのです。

江崎グリコの問題は、決して単独企業ではなく、多くの企業が抱えているものだと思うのです。そして、さらに言えばシステム面の問題だけではなく、営業の仕組みにも当てはまると私は考えます。現状は、なんとか仕事が回っている状況だと課題が明らかにならないのですが、優秀なセールス人材が長期にお休みしたり、退職したりといった状況になったらどうなるのか。営業人材の問題ももちろん重大なのですが、営業の仕組みを実は陰で支えているスタッフ(=縁の下の力持ち)がいなくなったらどうなるのか。実は個人裁量に委ねられている問題が沢山あるのではないでしょうか。

私は百貨店の営業部門のスタッフだった時に、毎日の朝礼のために「今日の業務連絡事項」をまとめて各チームのアシスタントスタッフへ配信していました。このメモが出来る前は各チームの朝礼はバラバラの状況だったのです。でも、部長たちはこのメモの存在の重要性をあまり認識していなかったと思います。

各メンバーがちょっとした配慮を積みかさねて業務は回っていると実感します。

大きな問題が発生していない今だからこそ、仕事の棚卸をしてマニュアル化を進めておく必要があると思うのです。「マニュアルなんて使わないよ!」と言われる方もいらっしゃると思うのですが、自分たちの使命とその実現に向けた業務の定義、役割分担など、整理するといろいろと見えてくる課題があるのです。永らくマニュアルづくりをしてきた私の実感です。

ぜひ一度マニュアルづくりをしてみませんか。

売った後が大切なのに…

売った後こそ、大切なのに…。

そう思うことがあります。売り込むためには色々手を尽くすのですが、一度売れてしまうとその後は別の売り込みに気持ちが移ってしまっているようなのです。家電でも自動車でもそうなのですが、購入前には消費者はいろいろ調べて比較検討して商品を決定していると思うのです。しかし、当該商品のカタログを一番真剣に読み込んでいるのは、実は商品を購入した後だ、と聞いたことがあります。消費者は高額品であればあるほど、自分の判断(商品の決定)が正しかったのか不安になるようで、「判断は間違っていなかった!」との確認をするためにカタログを精査しているのではないか…とのこと。さらに、実際に使ってみて、「想定していたのとは違う」「使っていてちょっと違和感がある」などの感想を持つこともあります。但し、使い方が間違っている場合もあるかも知れません。

こういった点を考えると、売った後の対応の重要性が分かります。百貨店個人営業でマネジャーをしていた時には、メンバーがお客様に商品を販売した場合、その翌日に必ず電話して次のようにお話しするように指導していました。

「昨日は、お買い上げありがとうございました。とても良いお買いものをされましたね。何か不具合などがありましたら、お気軽にご連絡ください。」

大半のお客様はこの一言で安心して、お買い物に満足頂けるようです。しかし、たまに「この商品は…」とご不満を述べられる方もいらっしゃるのです。その場合には、当該売場の担当者とも連絡し、その不満の要因を取り除きます。本当に商品に不具合がある場合もない訳ではありませんが、ほとんどの場合には誤解とか不理解が多かったです。でも、いずれにしても、我々の対応によってお客様の満足度は高まるのです。

売った後にお客様に何ら対応しないで、お客様が不満を抱えたままの場合でも、多くの方は担当者にその不満を漏らすことは実は少ないようです。不満を抱えたままで結局疎遠になってしまう。こうした顧客は離反していくのです。

介護福祉機器メーカーの販売促進のお手伝いをしている時にも、こんなことがありました。それなりに高価な商品だったのですが、代理店経由での販売だったので、直接顧客接点を持つことにためらいがあったため、販売後のフォローをしていませんでした。しかし、よくよく聞いてみると代理店もフォローしていない。メーカー側の担当者も「販売してから何年も経っているので、既に故障してしまっていたり、使われなくなっていたりするかも知れない。」とのこと。こうした懸念があったため、一度代理店経由で販売した商品の利用状況をサンプリングしてヒアリングしたことがあったようなのですが、やはり故障していたり、既に使われなくなっていたり…という状況だったそうです。不満を持ったままでは、次のお買い上げには絶対につながらないのです。

売った後こそ、大切なのです。

売った後のフォローをちゃんと行動基準とすること。こうした細やかな活動をちゃんと評価する仕組みを整備すること。これがロイヤルカスタマーの獲得・育成には不可欠なのです。

「経営者は現場のことを分かってないんですよ」

今年(2024年)3月21日の『毎日新聞(朝刊)』に「人を動かすナラディブ 人生をつむぐ聞き書きの力」という記事がありました。

「誰かが語る人生の物語に耳を傾け、話し言葉のまま書きとめて手作りの本にする。そんな『聞き書き』が近年、広がりを見せているという。」

こんな言葉から始まる記事でした。私も永らく労働組合専従として、職場環境の改善にむけて膨大な数の組合員の方々のヒアリングをして、その声を文章にして経営に投げ掛ける仕事をしてきたので、とても興味を持ちました。この『聞き書き』という活動は、作家の小田豊二氏が中心になって進めている活動のようで、『「書く」ための「聞く」技術』(サンマーク出版,2003)を読んでみたのです。この著書の中では、基本的な「聞き書き」技術を解説したあとで、刑事、新聞記者、産業カウンセラー、医師などの職業によって方法論が全くことなっていることを指摘しています。近年流行っている『聞き書き』は、ご高齢の方々を対象として、これまでの人生を振り返り、インタビューによって「記憶を蘇らせ」、その人の言葉で書き止めていく活動であるとされています。興味がある方はぜひ、『聞き書き』をインターネット検索して頂けると表示されると思いますので、ぜひご覧下さい。

さて、コンサルティングの仕事をしていると企業の経営者の方とお会いする機会があります。中には現場からのたたき上げの方もしれば、ビジネススクールでMBAを取得した方までさまざまです。最近は、人手不足ということもあるのでしょうか、従業員のモチベーションを大切にしている経営者も多くなってきているように感じます。そんな従業員を大切にする経営者がいらっしゃる企業でのコンサルティングの事例を思い出しました。その経営者は「お客様も従業員も笑顔になる経営をしたい!」と熱く語っていました。そのために、「基準となる働き方を整理してマニュアルにまとめたい」とのご意向をお持ちでした。

この企業はお客様に商品を販売しているのですが、営業担当は個人裁量で活動しているので、ノウハウが継承されず、新規にセールスを採用しても定着しない。また、個人目標の達成度で評価させるために、お客様のご要望を踏まえた提案をするというよりも、売り込みになりがちな営業担当もいる状況でした。また、営業活動を支援する様々な業務を担うスタッフもいらっしゃったのですが、役割分担が不明確でもあり、コミュニケーションも不十分な様子も見受けられたのです。

このお仕事を頂戴した時に、「まずはなるべく多くの従業員の方々のお話しを伺って課題を抽出しよう!」と考え、日程を調整頂き、ヒアリングをおこないました。コンサルティング仲間からは「なんでそんなことするの。理想の営業スタイルでまとめれば良いじゃないか!」とのアドバイスもあったのですが、これが経験を踏まえた私のスタイルなので、“俺流”でやらせて頂きました。経営者に雇われたコンサルティングですので、当然警戒感はあります。だから、まずは心をひらいてもらうことから始めます。雑談から入って、入社した理由、苦労したこと…などなど、いろいろ聞いていくと、様々な課題の片鱗が見えてきます。その片鱗を丁寧に「なぜですか?」と「どうしたら良いと思いますか?」と投げ掛けることで、少しずつ見えてくるものがある。ヒアリングを重ねていくことで現場の掲げている課題が明らかになってくるのです。こうした課題を整理して、経営者の皆さんにプレゼンをしたのです。体系立ててご説明して、その都度「なるほど…」と聞いて頂いているのですが、最後にこのように申し上げました。

「これまでヒアリングを踏まえて、課題をご説明させて頂きましたが…、御社における最大の課題は『コミュニケーション不足』です」と

。最初は、私の申し上げている意味が恐らく分からなかったと思います。経営者からすると、現場のメンバーとは密接にコミュニケーションをとっている。なぜ、そんなことはないはずだ…。

経営は、頑張っているセールス、成績の良いセールスの話は良く聞くのです。しかし、話をあまりしていないセールスやスタッフもいる。彼・彼女たちは意見がない訳ではない。そこに実はこの企業における構造的な問題が隠れていることもある。上手く行っているセールスは良いのです。上手くいっていないセールスには何か課題がある。スタッフとのコミュニケーションが不十分な理由がある。中間管理職は、上長には良いことしか言わない傾向もある。現場の課題は個人の力量やモチベーションの問題にされてしまっていることもあるかもしれない…などなど。

「社長は、成績の良い奴の話しか聞いていないんですよ。」

「経営は現場のことを分かってないんですよ。」

こんな声をたびたび伺いました。とても従業員思いの経営者だったにもかかわらず…です。

「文句ばかり言っている奴ら」と排除するのは簡単なのですが、文句を言う理由の中にも真理のあると考えるべきだと思うのです。

だからこそ、今こそ必要なのは『聞き書き』です。埋もれている課題を発掘し、その改善の手立てを見つける。ITツールを導入することで生産性を飛躍的に高める…というような“華やかな”活動を強みとするコンサルティングもあるのですが、私はこうした地道な活動こそが、まずは多くの企業で必要なんだと思います。第三者からしか見えない課題もあるのです。

経済的特典で獲得した顧客は、経済的特典で離反する

“経済的特典で獲得した顧客は、経済的特典で離反する” (例えば、ポイント○倍政策です。)

ビジネススクール時代における研究テーマは顧客ロイヤルティでした。百貨店個人営業部門に在籍していた時に、担当者と顧客の信頼関係の重要性を現場の販売促進担当者として実感していたからです。お客様からは「担当の○○さんの成績にしておいてあげてね。」とか、「○○さんが勧めてくれるならば間違いないわね。」などとの会話が日常的聞かれていたのです。

一方で、企業としては、業績向上にむけて年間のお買い上げ高に応じて特典を変えていく「ロイヤルティプログラム」の導入を進めていました。一定のお買い上げ額を超えると、割引優待率や付与ポイント数が増えたり、特別なラウンジが使えるようになったり、航空会社のマイレージプログラムみたいになっていたのです。

実際にこんなことがありました。年間買上高が100万円を超えるとステージが1つ上に上がる仕組みになっていたので、11ヶ月経過段階で例えば90万円など、もう少しで100万円を超えそうなお客様を抽出して、一斉に電話アプローチでこう伝えるのです。

「お客様。あと○○万円のお買い上げで、1つ上のステージになりますよ。そうするとポイント付与率が10%になります。」

「お客様のお買い上げ高は、現在○○万円なので、あと1ヶ月で○○万円以上お買い物がないとステージが1つ下がってしまいます。」

私個人としては、「こんなプロモーションって、本当にお客様のためになるのだろうか?」と大いに疑問に持っていました。これまでの関係性を踏まえて、お客様にお勧めしたい商品があるということならばまだ良いのですが、要するに「何でも良いから買物しませんか?」とのアプローチなのです。

もちろん、中には「ありがとう。それならば買い物に行きますよ。」と言って頂けるお客様もいらっしゃるのは事実なのです。しかし、こういった経済的な特典を前面に出したアプローチは短期的な売り増し効果はあったとしても、中長期的にはどうなのか。ライフタイムバリュー視点からどうなのか? 顧客ロイヤルティの源泉はどこにあるのか? こうしたことに関心があった訳です。

いわゆる「外商顧客」というのは、複数の百貨店とお付き合いしていることが多いです。「お宅のカードはどれでしたっけ?」とレジにてお客様がお財布に入った複数のカードを見せて聞いてきたり、似たような券面なので、間違えて競合百貨店のカードを提示したりといったことは日常茶飯事です。競合百貨店だって負けないように様々な経済特典を提示しています。その都度、あっちの百貨店で買ったり、こっちの百貨店でかったりと使い分けている顧客も少なくない。結局、経済的特典で獲得した顧客は経済的特典で離反する。顧客ロイヤルティは2種類あって、1つは「態度的ロイヤルティ」(≒購買に対する意欲)であり、
1つが「行動的ロイヤルティ」(≒実際の購買行動頻度)と言われる。つまり、お買い上げ上位のお客様(=行動的ロイヤルティの高いお客様)にも2類型あって、当該店舗に対するロイヤルティが高いお客様(=態度的ロイヤルティの高いお客様)とたまたま多く買い物をしているお客様である。前者はお買い物するならばこの店舗でと決めている一方、後者は経済的特典によって買い物をする店舗を変えている可能性が高い。

実際に、筆者がおこなった外商顧客へのデプスインタビュー、アンケート調査からは、「行動的ロイヤルティ」としての「継続購買意向(継続的なお買い物)」や「他者推奨(口コミ)」については、担当者との信頼関係や担当者からの買い物支援からの影響が大きく、経済的特典はほとんど影響がないことが明らかになっている。

優良顧客を育成するならば、当然「行動的ロイヤルティ」が高いだけではなく、「態度的ロイヤルティ」も高い顧客が良い。ならば経済的特典では育成が難しい。経済的特典は“諸刃の剣”である。うまく使わないと「偽の優良顧客」をたくさんつくってしまう。そして、競合他店が、より魅力的な特典を提示することで離反してしまう。

「真の優良顧客」を育成・維持する枠組みをぜひ作りましょう。

DXによって現場が混乱してしまうことだってあります

先におことわりしておきますと、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」に取り組むべきではない、と言っている訳はありません。むしろ積極的に取り組むべきだと考えます。これからの時代にあって、ITの活用は不可欠であり、そのメリットを十分に活かすべきだと考えます。しかし、「DX」という名の下で、単なるデジタル化やシステム導入に留まっている事例が本当に多いのではないかと危惧しています。本来の「DX」は、IT活用を契機として、既存の業務フローを抜本的に見直し、組織を見直し、企業文化を変革することで、飛躍的に生産性を高めることを狙った企業改革だと思うのです。

こんな事例がありました。「小売もできるIT企業」を標榜していた某百貨店では、顧客管理システムの切り替えを検討していました。既存システムは既に導入から5年程度経過しており、メールやSNSなどの活用を想定した仕組みに切り替えるタイミングだったのだと思います。そんな時に、ある経営者がこう考えました。

「店頭の顧客情報と外商の顧客情報を共有すれば、もっとお客様への提案力が高まり、売上拡大が出来るはずだ!」

読者の皆さんはどのようにお考えでしょうか?

売場が持っている顧客情報と外商が持っている顧客情報は連携していません。それどころか同じ商品部門内の売場同士も顧客情報は共有しません。お得意様の属性情報や購買履歴は各売場としての宝物です。(建前としては店舗内で取得した顧客情報は百貨店との共同管理なのですが、実態は百貨店側が手を付けられない。)自ショップの優良顧客に対して、他の売場からアプローチがあってそちらで買い物されると困るからです。ショップ間での情報共有はダメですが、外商との情報共有は可能なのか? お客様は売場の販売員や外商担当との間に信頼関係に基づいて、様々な個人情報を提供して頂けます。中にはセンシティブなものもあります。そんな情報が共有されるとなれば、当然外商担当は当該顧客管理システムに情報登録をしません。売場も同じです。

「あなたを信頼して伝えたのに、なぜ他の販売員や外商担当が知っているの!」

信頼関係は崩れ、もう二度と買い物をしてくれないでしょう。

某百貨店では、現場の反対を押し切り、大きな投資をして、この顧客管理システムを導入しました。当然ですが、全く機能しませんでした。しかし、導入を主導した経営、そしてシステム担当は「上手く機能しています!」と経営陣に対して報告しなければなりません。そうしなければ責任を問われるからです。こうして、現場には「顧客情報をしっかりと入力するように」との指示が徹底されました。1日の入力目標件数が設定され、入力数が少ない担当は上長に呼び出されて「ちゃんと入力するように!」と強く指導されたようです。こうして、店頭に来店された顧客をそっちのけにしてシステムへの入力する姿が、あっちこっちに見られるようになったのです。こうして入力された情報ですが、果たして使えるものなのか…。当然ですが、ほとんど役に立たないものにならざるを得なかったようです。そして、今では殆ど使われていない。導入を主導した経営も既に退職し、携わったシステム担当者も既に異動してしまっている。膨大な投資をして、現場への負担を高め、顧客サービスの低下を招き、結果として顧客の離反を招いたシステムは、「DX」施策の1つとして社内外に好事例として発表されていたのでした。

この事例から得られる教訓としては、現場実態を知らない経営、IT担当にDXを任せてはいけない!。そして、ITベンダーの言いなりになってはいけない。経営者自身にITリテラシーがなければならない。こんなところでしょうか。

企業としては「DX」に取り組むべきだと思います。しかし、ITを活用して“出来ること”と“取り組むべきこと”は違うのです。まずは、現状の課題をしっかりと分析することから始めるべきだと考えます。役職とか部署を作っても「DX」は実現しないのです。

百貨店外商担当は、ただ商材を紹介しても売ってくれません

先日、社会人のコミュニティで、雑貨を取り扱う経営者の方からこんなことを言われました。

「●●百貨店にポップアップで出店したことがあるんだけど、売上の35%も利益を取られたんですよ。それなのに販売員も我々が派遣して…」

私が百貨店出身だったこともあって、いろいろ話をしてくれました。

そうなのです。百貨店で商品を扱ってもらうとなると売上の30%程度を提供することを覚悟しないといけません。もちろん、百貨店側の理屈もあるのですが、故に出展業者はこうした負担を受け入れてくれる取引先にならざるを得ない。そうすると最近流行っているお店とか、ちょっと面白そうなお店とかは出店しない、出来ない。百貨店側がこうした“殿様商売”をしている一方で、駅ビルやファッションビルは賃料方式で、百貨店よりも有利な条件で出店できるため、魅力的なお店を並べることができる。今は、大手百貨店を中心に、ラグジュアリーブランドなどの売上で業績が好調のように見えるのですが、基本的な収益構造は変わっていないため、いずれ厳しい状態に戻らざるを得ない。業績好調な今だからこそ、“売れる仕組み”を作らないといけないと思います。

さて、前回のコラムの続きです。

「百貨店の外商でこの商品を取り扱って頂くことはできませんか?」

こういったお問い合わせがあるのですが、その際にご理解しておいて頂きたいことがあるのです。百貨店外商部門は、経済的に余裕のある顧客を多数抱えていることは間違いありません。こうした顧客が大きなお買い物を継続的にして頂けるので、百貨店の業績は支えられていることも事実です。しかし、こうした買い物は外商担当がお勧めしたから実現した売上という訳では必ずしもないのです。(このあたりのお話しは既に別のコラムでも何度か触れてきましたので、ご興味がある方はそちらのコラムもご覧下さい。)だからと言って、外商が役に立たないかと言えば、それも違うのです。ポイントは、外商担当が“売り込まない”でも良い、“売れる仕組み”を整えることにあります。外商担当は個人業績目標を背負っているが故に、顔が見えている顧客に、詳細な説明をしなくとも良い商材を売る“効率の良い商売”を重視しています。「顔が見えている」というのは直近で多くのお買い物がある顧客であり、さまざまな事情から最近のお買い物が少ない顧客は後回しとなっている訳です。また、「詳細な説明をしなくとも良い」というのは、忙しい外商担当が自分で勉強して、何度も顧客に説明をしなければならないのでは困るからです。百貨店外商との取引を考える上では、この2点を踏まえて、手を打つ必要があります。

百貨店外商部門との取引を希望される商材というのは、高額品で対象顧客が明確なものが比較的多いと思います。「この商品を必要としている顧客にとってはソリューション商材として、喜んで高いお金を払ってくれる」と考えてのご要望です。これは正しい。問題は、今の外商担当が直近でのお買い物が多い顧客中心の働き方をしている中で、この商材を本当に必要としている顧客に情報を届けることが出来るか否か、です。つまり、今はさまざまな理由で買い物が少ないかもしれない顧客にもしっかりと伝わる手段を考えることが必要なのです。但し、こうした仕組みづくりを担う販売促進メンバーも少数、かつ多忙。具体的な方法論まで含めて取引先側から提案しないと実現しないのです。また、こうした手続きが手間であるが故に取引しないという結論になりがちなのです。

百貨店側も、売場のテナント化が進み、外商部門として取り扱いができる商材が徐々に絞り込まれており、店頭で扱っていない商材の開発をしたいと思っているのですが、進んでいかない状況があるのはこうした背景があるからなのです。そんなところにラグジュアリーブランドのバカ売れ(失礼ながら…)が始まってしまって、問題が隠れてしまった。百貨店の構造的課題への着手が遅れてしまった。そんな危機感を持っています。だからこそ、こうした商材開発を通して、百貨店側と取引を求める企業様の長期的なWIN=WINの関係を求める活動はとても意味があると思っています。

ご相談をお待ちしております。

百貨店外商での販売をご検討の経営者の方へ

「百貨店の外商でこの商品を取り扱って頂くことはできませんか?」

こういったお問い合わせが時々あります。百貨店に飛び込みで売り込みに行っても、ほぼ100%断られます。百貨店社内外の様々な人脈を使って、「ちょっと話を聞いてくれませんか…」との売り込みも多数あります。百貨店外商部門で取り扱い商材を決めているのは、大手百貨店では外商部門の販売促進担当、中堅百貨店では部長などが多いようです。結局、個人なのです。明確な取り扱い基準のようなものがあるのは少ない…と言いますか、見たことがありません。これまでの経験から「この商品は売れるかも知れない!」との印象を持った場合に商談が始まるのです。

恐らく、こういったご相談をされる経営者様からすると、「百貨店の外商担当は富裕層顧客に商品を紹介してくれるだろう」との期待があると思います。確かにそうなんです。百貨店の外商担当者は富裕層顧客と接点を持っていて、お客様に商品をお勧めすることが出来ます。そのため、うまく使えればとても有効に機能するはずです。しかし、うまく使うのが少々難しい。

例えば、こういったことがあります。企業によって、売上高であったり、粗利益であったりの違いはあるのですが、外商担当は個人業績目標を背負っています。百貨店で取り扱う場合の取引形態はいくつかあるのですが、店頭で扱っていない商材の場合、企業様と顧客が直接契約をしてその売上の10%程度を手数料として紹介した百貨店に支払うというものが多いと思います。この時に紹介した担当者の業績にどう反映されるかが問題になります。百貨店は仕入れてないので、売上にはなりません。手数料収入を売上換算する仕組みが整備されていない百貨店も実は少なくないのです。この場合には、「見做し売上」のルールを作ってもらわなければなりません。企業様が顧客に販売した価格なのか、手数料の数倍にするのか、など様々な決め方があります。こうしたルールを決めておかないと、個人業績の達成度で処遇がデジタルに変動する外商担当が頑張ってくれません。

また、商材のセールスポイントをしっかりと顧客に伝えて頂くためには、外商担当がその商材のことを“ある程度”理解しないといけません。パンフレットを納品しただけでは外商担当は動きません。多数の取引先様からはありとあらゆるパンフレットが事務所には山積みになっている光景をよく見ます。中には包装紙に配送伝票が貼られたまま、一度も開封されずに破棄されてしまうものもあります。だから、外商担当に対する勉強会を開催すべきなのです。但し、外商担当も忙しいので勉強会の時間を確保するのも大変です。朝礼の時間から5分もらえれば有り難い。ちゃんと会議室に集めて勉強会を出来たとしても15分程度が限界でしょう。だとすると、パンフレットだけではなく、外商担当用の説明資料が必要です。製品の概要はもちろん、どんな対象となる顧客像、関心を持って頂いた顧客がいらっしゃった場合の相談先などなど、ポイントをまとめたものを用意する。最近では、外商担当もタブレット端末を持っているので、ちょっとした時間で顧客に説明できる解説用動画などもあるとありがたいです。高いお金を掛けて作る必要はありません。手作りで十分です。

さらに、定期的に外商担当に声を掛けて、お客様からの反応を聞くようにすると効果があります。「全然興味を持ってもらえない」との意見でも良いのです。販売促進施策の見直しに繋げることが出来ます。

などなど…外商担当も生身の人間なのです。デジタル時代とかAIとか言われるのですが、人を動かすにはいろいろとやることがあるのです。

まだまだいろいろあるのですが、この話はまた後日。